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島森です。漫画や小説の感想が主です。TBもコメントもご自由にどうぞ。


by nm73tsrm
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欲望だけが愛を殺す

*[book]『デカルトの密室』瀬名秀明 新潮社  ISBN:4-10-477801-X欲望だけが愛を殺す_e0038376_246875.jpg

世界的な人工知能コンテストに参加するためメルボルンを訪れていた尾形祐輔は、プログラム開発者の中に、10年前に夭折したはずの天才科学者・フランシーヌ・オハラという名前を発見する。

デカルトの密室特別講義を、読了後に受けると非常に面白いです。
去年の『科学の最前線で研究者は何を見ているのか』もエキサイティングで生半可なミステリや小説より遥かに楽しめました。今回の『デカルトの密室』では最新のロボット研究を踏まえて瀬名氏のフィルタを通した「物語」になっています。この厚い本、只の理工専門書だったら絶対読み通せませんが、途中で止められないのは、文体が誠実でありセクシイだからです。

一つ一つの事に、ここまで誠意をもって描かれる「物語」は稀です。
10年、100年を見通さなくてはならない「科学者」。
現在描ける限界までは書こうという姿勢が見えます。

下記は講義録で私が興味を抱いた部分のコピペです。ネタばれには全くなってませんのでご安心ください。
アンドロイドの研究は「不気味の谷」を検証することもできるでしょう。不気味の谷とは、著名なロボット学者である森政弘さんが1970年に提出した仮説です。縦軸に人間との親和度を、横軸に人間との類似度をプロットすると、最初のうちは人間に似てゆくにつれてロボットの親和度も上がっていきますが、あるところで一気に親和度が下がって、不気味だと感じるようになってしまう。しかもその不気味の谷は、動かないものより動いているもののときのほうが深い、というのです。これまでは人間そっくりのロボットなどつくることができなかったので、本当にこの不気味の谷が実在するのか、誰も確かめることができなかった。

はたして機械で人間のような心はつくり出せるのか。著名な数学者であるペンローズが、『心の影』という著書の中で、AIについて研究者が採る4つの立場を分類しています。サイエンスライターの竹内薫さんがそれをさらにわかりやすい言葉に直していますので、併せて紹介しておきましょう。
 まず(1)は、強いAIと呼ばれる立場。思考はすべて計算によってつくり出せる、というものです。いい替えれば「人間とアンドロイドは同じ」ということですね。
 (2)は弱いAIの立場。自意識は脳の物理作用だと考えるものの、計算シミュレーションだけでは自意識はつくり出せない。ただし外見から似たものはできるという立場で、換言すれば「人間とアンドロイドは外からは区別できない」ということになります。
 (3)はペンローズ自身の立場。現在の数学体系だけでは自意識はつくり出せない。量子コンピュータが必要だ、という考え方で、つまりは「人間とアンドロイドは中身が違う」という立場です。
 そして(4)は神秘主義。自意識は科学では扱えない、つまり「そもそも人間を科学的に論じることは不可能」という立場です。
リベラルな大多数の研究者は、おそらく(2)の立場を採ると思いますが、知能に対する考え方は時代と共に変わってゆきます。
 皆さんはどの立場を支持しますか?


昨今のロボット研究も、まさにこの後期クイーン問題と同じジレンマに陥っているとぼくは思います。

バロン=コーエンは自閉症の研究で有名な人です。この人が最近、『共感する女脳、システム化する男脳』という本を出して、かなり話題になった。女脳や男脳というと、アラン・ピーズとバーバラ・ピーズの『話を聞かない男、地図が読めない女』を思い出すかもしれません。女と男の違いを解説する本では、たいてい女性は言語能力に優れ、男性は空間把握能力に優れているといっています。まあそれはおおむね当たっているのだけれど、バロン=コーエンの本がすごいのは、女脳はどちらかというと共感能力に優れていて、男脳は物事をシステム化する能力に優れている、と別の角度から分析して、しかも極端な男脳は自閉症に近いという説を展開したことにあります。
by nm73tsrm | 2005-11-09 02:47 | book