島森です。漫画や小説の感想が主です。TBもコメントもご自由にどうぞ。


by nm73tsrm
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本当に大切なひとに贈りたい本

*[book]『映画篇』
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金城 一紀
集英社
ISBN-10: 4087753808
ISBN-13: 978-4087753806

鴨居まさねさんのファンでもある人には、『対話篇』に続き、今回のカラーイラストも笑みがこぼれそうに。

『対話篇』が最も好きな恋愛小説なので、『映画篇』も1篇につき1日かけるように大切に読みました。男性の書いた全身全霊で、かつ相手を尊重した恋愛小説を読むと、たいていの女性だったらやはり感動してしまうんじゃないでしょうか。
古典や官能小説にありがちなストーカーじみた男性だけの理想じゃない、恋愛小説。吊り橋理論を使ったものも除外。

短編集ですが、或る人物に取っては良い映画が、他の人物には貶されている等ということはありません。一貫しています。

どの作品もアリステア・マクラウドの文章のように、一文、一文が輝いています。
ただの活字、ただの日本語なのに。
後におさめられている作品になると、声を出して笑った後に、涙が出て来る程になり、本を読むことでは滅多にない体験が続きました。アホの子、自然界のバランスを狂わせて、天変地異を起こしちゃいそうなのか、すごいな!

『愛の泉』の272Pの後半、よつばとヤンダまんまですし(『よつばと!』)。
353Pからはたまらないです。そうか「ご苦労さん」って言ったんだな、よかった…。

恋する男性の基本は「easy come,easy go」か……、ここのあたりが、金城さんの素敵さを支える屋台骨かと。

誓ってもいいが、子供時代の僕が幸せだったはずはない。龍一と過ごした幸せな時間よりも、もっと多くの不幸せな時間の中で僕は生きていた。でも、不思議なことに、龍一と見た映画を起点にして目の前に広がる記憶には、不幸せだった事柄がぽっかりと欠落しているのだ。映画の力で導かれた記憶の中の僕は、いつでも軽やかに笑い、素直に泣き、楽しそうに手を叩き、一心不乱に龍一と語り合い、はつらつと自転車を漕いでいた。


「才能がないわけじゃねぇんだよ」龍一は煙を吐き出しながら、言った。
「え?」
「映画を作れる環境にいるってだけで、それはもう才能があるってことなんだよ」
僕は黙って耳を傾けることで、龍一に先を促した。龍一は煙を深く吸い込み、吐き出して、続けた。
「才能っていうのは力のことだよ。でもって、力を持ってる人間は、それをひけらかすために使うか、誰かを救う為に使うか、自分で選択出来るんだ。さっきの映画を作った連中は、ひけらかすほうを選んだんだよ。たいして語りたいこともねぇくせに、自分の力だけは見せつけたくて映画を作るから、結果的にせんずりこいてるみたいなひとりよがりの作品ができあがるってわけさ」


ちょっとだけ歳を取った女の人が、若い男の人と出会っていやらしいことをしたり、おいしそうなものを食べたり、わけの分からないセリフを喋ったり、泣いたりしてるだけの映画だった。見終わったあとに、お父さんとお母さんが離婚したのはこんなつまらない映画を見たからじゃないかな、とユウは思った。

「ところで、君は人を好きになったら、どうするの?」
どうするのって言われてもなぁ、と思いつつも、僕は答えた。
「その人に、思いを伝えますね、たぶん」
「伝えるだけ?」
質問の意図が深まっていくのを感じたので、戸惑って返事をできずにいると、浜石教授は真剣な光をかすかに目に点して、言った。
「君が人を好きになった時に取るべき最善の方法は、その人のことをきちんと知ろうと目を凝らし、耳をすますことだ。そうすると、君はその人が自分の思っていたよりも単純ではないことに気づく。極端なことを言えば、君はその人のことを実は何も知っていなかったのを思い知る。そこに至って、普段は軽く受け流していた言動でも、きちんと意味を考えざるを得なくなる。この人の本当に言いたいことはなんだろう?この人はなんでこんな考え方をするんだろう?ってね。難しくても決して投げ出さずにそれらの答えを出し続ける限り、君は次々に新しい問いを発するその人から目が離せなくなっていって、前よりもどんどん好きになっていく。と同時に、君は多くのものを与えられている。たとえ、必死で出したすべての答えが間違っていたとしてもね」
浜石教授は、いったん言葉を切り、柔らかく微笑んだ。
「まぁ、人であれ映画であれなんであれ、知った気になって接した瞬間に相手は新しい顔を見せてくれなくなるし、君の停滞も始まるもんだよ。


場内が暗くなり始めて、少し不安になって隣を見たらね、おじいちゃんがわたしを見てくれて、ニコッて笑ってくれて……。よく考えたら、おじいちゃんの笑った顔を見たのは、その時が初めてだったんだけど………。あのさ、こんなこというのは照れ臭いんだけどね、その日からね、おばあちゃんはね、おじいちゃんがそばにいないなんて考えられなくなっちゃったのよ……。おじいちゃんがいないと、だめになっちゃったのよ……。

たとえ家族であっても、中途半端な興味と共感と理解で人の心に分け入っていこうとすることは、土足で踏み込んでいくのと同じだ。それでもあえて分け入っていこうとするなら、おばあちゃんの心の中にあいた大きな穴を埋めるぐらいの宝物を持って行くしかない。

「どうしてこんなに時間が掛かったの?」
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by nm73tsrm | 2007-12-09 19:33 | book